僕らが謎を解く理由 ~MtGと任天堂に学ぶ、プレイヤーの心理傾向~
・この記事はAnotherVision Countdown Calendar2017の一環の記事となっております。
はじめに
こんにちは、AnotherVisionのしゅんと申します。
まずは簡単な自己紹介から。
名前:しゅん
制作分野:謎制作や動画、そして時には司会や声優(?)などで働いています。
入会時期:3(.5)期(だいたい2015年11月)
謎解き経験:2013年5月「ある試験からの脱出」が初体験。以降様々な謎解きに触れるも、AnotherVision入会を逃し続け、ようやく2年前に入会。
僕はこれまでいろんな謎解きイベントに参加してきましたが、一口に謎解きと言ってもいろんな側面があり、その面白さは一言で語れるものではないなぁと思っています。
その証拠に、皆さんと口々に感想を言い合ったりすると、どこに面白さを感じているかがまるで違う。みんな謎解きの感想で喧嘩しすぎ。合う合わないの個人差があるのはもちろんですが、謎解きは特にその印象が強いように思います。相手は同じ「謎解き好き」のはずなのに、自分の好きな謎解きや団体を薦めても「なんか違う……」みたいな感想が返ってくることが多い。おかげで、まるでマイナーゲームを薦めるときのようなヒリヒリ感を味わう羽目になっています。まあそもそも謎解きってまだまだマイナーゲームだよね……
ということで、僕はちょっと真面目に、この「謎解き」という不思議な界隈における面白さとは何か、その分類を考えてみたいと思います。
※ここから先、僕の専門外、知らない分野についても語ります。学術的論理的に正しいわけでもないし、勝手な推測や印象論も話します。「何偉そうに言ってんだこいつ」と思われるかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。また、記事の中で分類が登場しますが、必ずどれか一つに分類されるわけではなく、二つ以上を兼ねたり、どれにも当てはまらない場合もあります。「○○な人はすべて××だ」とか言いたいわけでもないので、その点ご了承ください。
ゲームプレイヤーの心理学的分類
まず、謎解きの楽しさについて考える前に、人がゲームに何を求めるのか、ということについてちょっと書きます。そもそもゲームの楽しさにもいろいろあって、何に楽しさを感じるかは人それぞれです。これについてはすでに研究されていて、「Magic: The Gathering(MtG)」*1というカードゲームの開発部が「心理学的分類」として、人がゲームを遊ぶ動機によって、プレイヤーを3種類にタイプ分けしています。
ではさっそく見ていきましょう。この後の話につなげるため、ちょっと一般化して書きます。
スパイク
ゲームに挑戦を求める。
勝つこと、自分の強さを証明することを目的にゲームをする人々。強さを追い求め、課題に対して全力で立ち向かう。
トーナメントなど、競技性のある遊び方を好む。
ティミー
ゲームに体験を求める。
何らかの目的を達成するためにゲームをするのではなく、ゲームをプレイしているときの興奮や快感そのものが目的。
分かりやすく派手なことができるものを好む。
ジョニー
ゲームに自己表現を求める。
ゲーム内で自分の個性を披露することに喜びを感じる人々。独創的な構築やトリッキーなプレイで魅せることが何より重要。
自由度の高いものを好む。
これはあくまで、カードゲーム開発において新しいカードを作るときなどに、顧客の心理を考えるために使われたりするものですが、僕はこれをもっと一般的な「ゲーム」という枠組みで考えてもいいのではないかと思いました。
コンシューマー業界で起こった波状攻撃
この「心理学的分類」を踏まえて見ると面白いなと個人的に思ったことがあります。それは今年のコンシューマーゲーム業界。皆さんご存知、任天堂についてです。
Nintendo Switchが今年3月に発売し大ヒットとなったのはいうまでもありませんが、その販売戦略を見ると、前述の3タイプそれぞれに向けたキラーコンテンツを用意しているうえに、その発売時期まで含めてよく考えられていることが分かります。
まず、ローンチタイトルです。本体の発売開始と同時に遊べるということは、他に遊べるゲームが出そろっていない状況でもあるので、それだけプレイに時間を費やしがちな、すなわち研究できる時間が長いソフトになるということです。そこに持ってきたのが「ゼルダの伝説 Breath of the Wild」。やろうと思えばいくらでも研究ができる、ジョニーにぴったりの高自由度オープンワールド系ゲームです。自己表現を求めるプレイヤーはこぞって様々なルートを開拓し、思い思いのやり方でゲームを楽しみました。
そして、そこから時期をずらして、7月。プレイヤーにある程度の環境を整える時間を与えた後、満を持して「Splatoon2」の一斉スタートを迎えます。平等な条件下で自分の実力を試したいスパイクにとってはこれ以上にない最高の展開です。シンプルに対戦を主軸においているだけあって、そのウデマエを競ってガチ勢が大量の時間を溶かします。その後の定期的なアップデートやイベント開催などのケアもこまめに行われており、2017年12月現在もなお多くの挑戦者たちがしのぎを削っています。
最後に、品薄状態が緩和され多くの人がSwitchを手に入れやすくなった10月。任天堂を代表するといっても過言ではない超有名シリーズの最新作「スーパーマリオ オデッセイ」が発売されました。するべき行動がある程度定められている箱庭アドベンチャー、それでいて過去何作も発売されていて安定感のあるマリオというタイトルはティミーの分かりやすい体験を求める心と相性抜群です。ティミーは他の2タイプと違い、ゲームを楽しむことに他者が介在しないので、発売直後に死に物狂いで本体を手に入れる戦争に参加するモチベーションは薄かったのではないかと考えられます*2。その時期が過ぎ去り、本体を手軽に手に入れられるようになった今だからこそ、まだ本体を持っていなかったティミー層が最初に買うソフトとして最適だったといえるでしょう。
※といっても、僕はマリオについてはまだ遊べていません。近々買いに行くので、もし実際にやって何か間違いがあったらこっそり訂正します。
まあもちろん、あるタイプに向けたゲームだから他のタイプは楽しめない、ということは全くなく、ちゃんと全タイプが楽しめるように、どのゲームにも各タイプに向けたモードや要素を入れることで対応しています。任天堂は偉い。
謎解きを楽しむ人の分類
では、謎解きにおいてはどうでしょうか。謎解きの「ゲーム」というくくりの中での特殊性も念頭に置きながら、各タイプのプレイヤーについて考えてみたいと思います。(また、2017年の間に行われたAnotherVisionの公演を僕個人の独断と偏見で分類してみたので、何かの参考にしていただければと思います)
スパイク
謎解きとは困難への挑戦であり、簡単にはたどり着けない「成功」という高みに登ることこそが快感なのだ!という人。成功率やクリアタイムなどをこまめにつけていて、失敗したら反省し、次こそ成功するぞという気持ちで謎解きに参加し続けます。
いわゆる謎クラスタと言われる、ガチめの謎解きプレイヤーの方に多いと思われます。プレイヤーにスパイクが増えたのは、低脱出率を強調していたSCRAPの影響が大きいのではないかと僕は考えています。特に僕が謎解きを始めた2013年ごろはその傾向が強く、「Xの悔しさはXでしか晴らせない→もう一度Xに参加するほかない」という非常に簡単な論理によって多くの人*3がリピーターとなり、謎界隈に集まりだしました。
また多くの場合、謎の答えは一つしか存在せず、目指すべき目標がはっきりしています。それでいて、できる人とできない人がはっきり分かれます。さらに、複数回参加ができないので、成功・失敗の評価が一生変えられないまま残ることになります。このストイックさも、スパイクの心を刺激する一つの要因となっていることでしょう。
AnotherVisionのスパイク向けコンテンツ:ニブンノイチマッチ(Unlimited)
ティミー
謎解きとは何らかの体験をするためのツールであり、成功・失敗よりも自分が楽しめたかどうかが大切だ!という人。
ティミー(特に自分がティミー的であると自覚している人)は、全力でコンテンツを楽しむように行動します。制作者の設定した楽しさポイントには素直に乗っかり、時間いっぱいこのコンテンツを楽しみつくそうと努力します。ところが、「謎を解きたいのではなく、体験をしたいんだ」という思いはしばしばスパイクと対立します。長く楽しみたいがゆえにゆったりと解いたり、クリアの目標から脱線したコミュニケーションをキャストと取りたがるプレイヤーはスパイクからは疎まれがちです。別にどちらが悪い、というわけでもないのですが。
僕の周りを見ている限り、制作経験者にはティミーが多いという印象があります。AnotherVisionの人たちを見ていてもその傾向が強く、ストレスのない解き筋や、解けた時の快感・納得度など、体験の質によって謎の良し悪しを語ることが多いように思います。やはり皆が「この楽しさを皆に味わってほしい!」という思いで謎を作っているからでしょうか。
「謎はあくまでツールであって、コンテンツの持つ魅力を存分に楽しんでほしい!」という制作者の思いから生まれるものは場合によってはゲームですらありません。成功・失敗の概念が消えることもあれば、謎がないコンテンツが誕生することもあります。(それは謎解きなのか?という疑問は当然あるが)
AnotherVisionのティミー向けコンテンツ:Connect
ジョニー
このタイプはそもそも現在の謎解き界隈には(謎解きに対する姿勢としては)あまりいないと思われます。
まず、「謎」が一つの答えを導くものである以上、自分の個性を発揮することを喜びとするジョニーは謎解きそのものと相性が悪いと言えます。謎解き公演においては、大量生産ができず、自動生成困難な、使い捨ての「謎」というものを取り扱う性質上、制作者のデザインする理想的なゲーム展開からの脱線、または別解が生まれることは「バグ」としてひどく嫌われます。またそれらを許してしまい、プレイヤーの行動を完全に制御出来なくなれば、成功・失敗という判定基準が無意味になってしまいます。その点において、ジョニーの好む自由度は他の2タイプの楽しみを奪うことになりかねません。想定する楽しい体験を味わってほしい制作者側としては、イレギュラーな行動は極力起こしたくないはずです。
解決策は全くないわけではありません。大量のルートや遊び要素を用意して行動できる範囲に幅を持たせ、疑似的にでも自由度を味わわせることです。こういった贅沢なゲームは稀にありますが、制作コストが半端じゃないのであまり多くは作れません。今のところ、完全にジョニーを狙い撃ちにする謎解きゲームを作る方法は、まだ確立されていないというほかありません*4。
AnotherVisionの(一応)ジョニー向けコンテンツ:REVERSE
もうひとつの分類法
ちなみに、MtG開発部の提唱する分類法はもう一つあって、先述の「心理学的分類」に対して「美学的分類」と呼ばれています。こちらは動機ではなく、ゲームの何に価値を置き、高く評価するかということで2つに分類されています。先述の3タイプ×2タイプで合計6タイプ*5も人の楽しみ方があるということです。ややこしいですね。
ヴォーソス
コンテンツの世界観を重視する人。
ゲームの持つ雰囲気、フレーバー、コンセプトなどを大事にする。
謎解きで言うならば、世界観の作りこみがしっかりしている公演を好む層。例えば「自分がその世界に入った感覚」をうまく出している公演や、「謎なぜある問題」を解決している公演、謎が解けたことによって発覚する真実が「エモい」公演などはヴォーソスにとって評価が高い。
コラボコンテンツは原作が既に存在するので、もとから世界観が出来上がっているうえに、原作ファンがその世界観を味わうことを目的に来るため、ヴォーソス向けに作られることが多い。
AnotherVisionのヴォーソス向けコンテンツ:神と天使と僕らの手紙
メルヴィン
コンテンツのメカニズムを重視する人。
機能、構造、トリックの美しさなどに価値を置く。
謎解きにおいては、大謎やシステムがすごい公演や、新奇性のある謎や面白いギミックが登場する公演がメルヴィンに好まれる。
世界観よりも論理関係や模式図的に公演を見てしまうので、しばしばメタ読みに走りがち。逆に、メタ読み的な発想こそが大謎のカギとなる、「世界観などない」「謎を解け」「シンプルイズザベストだオラァ」みたいな公演はメルヴィン向けと言える。
一枚謎はその性質上ストーリーを乗せづらく、結果的にメルヴィン向けになることが多い*6。また持ち帰り謎は時間制限なしでゆっくり味わうことを想定しているため、ギミックのすばらしさについて考察したいメルヴィンとは相性が良いと思われる。
AnotherVisionのメルヴィン向けコンテンツ:Colorfuls
ここまでいろいろなタイプがあると、人によって面白いと思えるコンテンツが違ったり、団体によって対象とするタイプが違うのも頷けます。
例えば最近のAnotherVisionの制作方針を見ていると、まず初めにあっと驚く大謎あるいは体験を用意し(用意できるまで考える)、その周りを固めるように世界観および楽しい中謎・小謎をしっかりと作っていくことが多いように思います。特に「謎なぜある問題」は妥協しないという印象が強いですが、皆さんにはどう映っているでしょうか。AnotherVisionは、明確に言語化こそしていないけれど、心理学的にはティミーを主軸に、美学的にはヴォーソスとメルヴィンのバランスを取ろうとしている団体と言えそうです。*7
おわりに
ここまで紹介してきたように、謎解き界隈、ひいてはコンテンツを楽しむ人々には様々なタイプの人間が存在し、様々な思惑をもって同じゲームに参加しているのです。異なるタイプの人が一つのコンテンツを遊び、あーだこーだ言っているのです*8。これは、どちらかが正しくて、どちらかが間違っているというものではありません。謎解き界隈に生きる人々にも楽しみ方は色々あって、ときには違うタイプのものとぶつかってしまうこともあります。それはプレイヤー同士の衝突かもしれないし、制作者とプレイヤーの好みの不一致かもしれません。そんなときに、「俺が正しい!なんだあいつは!つまらんぞ!」とか言わずに、「そういうのが好きな人もいるよね」と優しく接してあげてください。*9
とはいえ、どうせなら自分の好みドンピシャのコンテンツや気の合う仲間を見つけたいですよね。そんなときは、もしよろしければこの分類を使ってみてください。好みを言語化できればミスマッチの可能性は減っていくはずです。この記事が、謎解きという広大なジャンルの中で、自分の好みを見つけ出すための何らかの助けになればいいなぁ、と思います。
長々と書いてきましたが結局のところ、僕は「分類」というものが好きなので、最近見つけた分類について語りたかっただけでしたね。ここまで駄文・長文にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
*1:ちなみにこのゲーム、僕はやったことないです。心理学的分類についてカードゲーム好きの友達から聞いて初めて知りました。なので浅い解釈かもしれません。悪しからず。
*2:スパイクは人より早くゲームを始めることでより強くなれる。ジョニーは自己表現を見せる相手がほしいので新鮮なネタを仕入れたい。
*3:僕を含む。
*4:逆にこれを確立できる団体が現れたら恐ろしいですね。「謎解き合わないな……」と思っていた層を一気に取り込めるかも。
*5:もっと正確には5つのタイプについてのある・なしが独立して存在するので、何も楽しめない人を含めると32タイプ。
*6:例外として、AnotherVisionのもちちゃんが作ったこれとかはヴォーソスが楽しめるやつ。
*7:もちろん他のタイプは来るな!と言ってるわけではなく、全ての層が楽しめるよう心掛けているつもりです。
*8:というか、「謎解き」というくくりが広すぎるんだと思います。これは「ゲーム」みたいなもので、「アクションゲーム」みたいな下位分類が十分に定義されていないのが問題な気もします。
*9:好みの問題ではなく、作りこみが甘い、クオリティが低い、という場合もあります。その場合は……まあ声を荒げないようにだけ。批評と罵倒は違うので。