イベントを作るということ -性格と価値観の話-
まず初めに。
記事がクリスマスに間に合わなかったよ...。
...ごめんて。
真面目に書いてたら遅くなったんです許してください...。
というわけで、12月25日分の記事の内容にね、入っていきたいと思います。
プロフィール
まずは自己紹介から。
東京大学謎解き制作集団AnotherVisionで「とと」という名で活動している者です。
名前 とと
twitter @to_to_0121
入会時期 2015年4月入会。いわゆる3期。
活動内容 AnotherVisionの副代表をしています。イベント単位では、制作指揮、その補佐、または監修をする人です。
作ったもの 最近だと謎解き公演「ニブンノイチマッチ」「REVERSE」、謎解き周遊「神と天使と僕らの手紙」ですかね。他にもいっぱい作ってます。
趣味 音楽ゲームとカードゲームが好き。(ツイッターのアイコンは遊戯王のカード)
尤も、カードゲームは対戦相手がいないのでほぼ引退してます...。
しかしながら、未だにカードゲーム関係の動画や記事を見ているので、やはり趣味には違いないですね。具体的にはデュエマと遊戯王をやってました。
さて、突然ですが。
この記事を読んでいるあなたは、謎解き問題やイベントを作ったことがありますか?
あるいは、作ろうとしたことがありますか?
謎解きを解くには特別な知識は必要ありませんし、作る側もそれは同じです。
しかし、いざ実際に作ってみるとなかなか思いつかないものです。
面白いものを作るとなれば尚更です。
謎解きを作れる人って、客観的に見て異質だと思うんですよ。
いったいどんな人が、謎解きを作ることができるのでしょうか。
この記事では謎解き、特に謎解きイベントに焦点を当て、
制作工程、及び関わる人間の性格・価値観を分析し、
その上で自分は何を意識しているのかという話をします。
なぜこんな話をするかというと、完全に自分の脳内整理のためなんですが...。
制作する人もそうでない人も、きっと何かしら参考になると思いますよ。
いや、知らんけど。
アイデアを生みだすのは大変
謎解きイベントは、全体を飾る大謎から1つ1つの小謎、さらには演出にいたるまで、数多くのアイデアから成り立っています。
言うなれば、謎解きイベントはアイデアの集合体です。
しかし、アイデアを思いつくというのはそう簡単なことではありません。
僕はAnotherVisionに入って約3年間謎を作ってきましたが、断言します。
アイデアを確実に生み出す手段など、ない。
ですが一方で、アイデアを生み出しやすくする手段はあります。
それが「考える」こと。
アイデアが生まれるまで根気強く考え、あらゆる可能性を試行錯誤する。
これが制作においては必要です。
もちろんアイデアは意図しなくても降ってくることがあります。
アイデア一発の一枚謎*1であれば、そのまま完成することもあるでしょう。
しかしボリュームのある謎解きイベントの制作では、この考える工程は不可欠です。
アイデアを生むために考え続けることができて初めて、謎解きイベント制作のスタートラインに立てるんですね。
ぶっちゃけ、性格で向き不向きがある
考え続けるにはかなりのモチベーションが必要です。
作ればそれなりのお金が貰える、等の外からの要因でモチベーションが生まれることもあり得ますが、
基本的には、 謎作り自体に楽しさを見出せる人でないと作るのは難しいでしょう。
では、人は謎制作のどのような点に楽しさを見出すことができるのでしょうか。
少し考えていきましょう。
心理学的分類と美学的分類
人の性格を語る上で、非常に便利な指標があります。
カードゲーム「Magic: The Gathering」の開発部で使われている、心理学的分類および美学的分類です。*2
こちらの分類については、カウントダウンカレンダー12月11日のしゅんさんの記事で、謎の解き手の立場から深く掘り下げられています。
興味があればこちらも読んでいただくと、理解が深まるかと思います。
なお、後にこの分類を謎解きに当てはめる際に、
しゅんさんの記事とは解釈が異なる部分がありますのでご注意ください。
それでは簡単に分類について説明していきます。
心理学的分類:カードゲームを遊ぶ動機には以下の3種類がある。
スパイク
カードゲームに挑戦を求める人。
≒勝利を追求するのが好きな人。
ティミー
カードゲームに体験を求める人。
≒カードで遊ぶこと自体が好きな人。
ジョニー
カードゲームに自己表現を求める人。
≒デッキを組むことが好きな人。
美学的分類:カードゲームの価値の判断基準には以下の2種類がある。
メルヴィン
カードの機能や相互作用、メカニズム、複雑なトリックが好き。
≒論理派
ヴォーソス
カードの持つ雰囲気やフレーバー、コンセプトが好き。
≒感覚派
心理学的分類と美学的分類は別の分類軸であり、これらを組み合わせることで3×2=6パターンの性格に分類することができます。*3
これをもとに、謎解きイベントの制作者像を考えていきましょう。
イベントを作るのはジョニーだ
先に結論を述べてしまうと、謎を作ることに楽しみを見出せる人はジョニーに分類される、というのが僕の考えです。
なぜこのような結論に至ったかと言うと、謎解きイベントの制作とカードゲームのデッキ構築、それぞれの工程に非常に多くの共通点が見られるからです。
(僕は高校時代は遊戯王オフィシャルカードゲームのデッキビルダーでした。)
僕がデッキを組む場合の工程は以下の通りです。
①まず、デッキの主軸を考える。1枚のカードである場合も、複数枚のカードのコンボである場合もあるが、何を活かしたいのかを明確にする。
②主軸が決まったら、それを実際の対戦で活かすためにサポートするカードを考える。例えば、主軸のカードをどうやって手札に持ってくるか、など。
③その上で、相手の行動によって対戦中に発生しうる状況を考え、それに対応するための手段を考える。例えば相手が攻撃力の高いモンスターを出したらどうするか、こちらの動きを制限する魔法カードを使われたときに対応できるか、など。
④実戦を繰り返し、デッキを調整する。デッキが思うように機能しない場合に、その問題点を整理し、それぞれに対応する方法を考える。例えば、敵の罠カードによる妨害に極端に弱いことが判明したなら、罠カードを破壊する手段を増やす、など。
また謎解きイベント制作の場合は、
①まず、主軸となるとなる謎や世界観を用意する。
②主軸を活かせるような途中のステップ、演出等を考える。
③謎を解くプレイヤーがどのような思考に至る可能性があるかを考え、不親切なミスリードやストレスが発生しうる場所を予測し、なるべく無くす。
④デバッグを行い、実際のプレイヤーの反応を見ながら微調整する。
という流れになります。
構造が酷似していることが分かりますね。
デッキ構築とは、創作活動そのものなんです。
別にスパイクやティミーも、デッキ構築に触れないわけではありません。
彼らは勝率を上げるために採用するカードを吟味したり、楽しく遊ぶためにお気に入りのカードを追加してみることはあります。
しかし、40枚のカードからなるデッキを0から構築できる(かつ、ある程度ちゃんと機能するものに仕上げられる)のは、そこに楽しみを見出せるジョニーに他ならないと僕は考えます。
そしてこれは謎解きイベントについても同様です。
謎や演出を少し考えてみる程度ならスパイクやティミーにもできますが、イベント単位で作ることができるのはジョニー的な性格あってこそでしょう。
ジョニーは、人に見せるために作る。
話を戻しますと、謎解きイベントを作る人は、何に楽しさを見出しているのか、ということでした。
ここまでで、謎解きイベントを作る人はジョニーである、と述べました。
ということは、逆説的に考えればイベント制作者は自己表現を求めている、ということになります。*4
自己表現により具体的にどのように楽しさを見出しているか、美学的分類をもとに考えていくとこのようになります。
自慢したい(メルヴィン・ジョニー)
自分はこんなに素晴らしいものを作れるのだ、と世界に知らしめたい。
…というと、いささか身勝手なように聞こえますが、
より多くの人に楽しんでもらえるものを作りたい。
それによって自分は満足できる。
という構造が当てはまります。
価値基準としては、謎解きの導線の綺麗さ・物語と謎解きの整合性に重きを置きます。
共感を得たい(ヴォーソス・ジョニー)
自分が面白いと思う謎解きイベントを、ほかの人にも楽しんでもらいたい。
自分の作りたい世界のありのままを表現したい。
価値基準としては、謎解きのテーマや世界観設定に重きを置きます。
※個人の意見です。それは違う、自分はいずれにも当てはまらない等の意見があれば、是非参考にさせてください。
ちなみに僕はかなりメルヴィンに寄ったジョニーです。
僕が謎解きイベントを作るのは、「より多くの人に楽しい体験をしてほしいから」(それによって承認欲求が満たせるから) ということになります。
制作者の多様性
分類を整理したことで、新たに見えてくる部分があります。
それは、
謎解きイベントを作る人にも様々なタイプがいる(いてよい)
ということです。
そもそもジョニーにはメルヴィンとヴォーソスがいる。
メルヴィンが作る謎解きに世界観的な深みが足りなかったり、ヴォーソスが作る謎解きに論理的な整合性が取れていなかったりすることは容易に発生する。
ただそこに重きを置いていないだけなのだ。
(特に大人数での制作において)スパイクやティミーも参加している場合がある。
スパイクは勝負の場としての公平さに基づき、ティミーは自身の繊細な感性に基づきイベント制作に真剣に向き合ってくれる。
制作メンバーにいるくらいなので、案出しに関しても積極的。
しかしイベントを構築できるかは別問題。
それはジョニー的感性の大きさで決まるのだ。*5
制作する上での意識
ここまでで一般的にどんな人が謎解きイベントを制作するのか、という話をしてきましたが、ここからは僕の話、特に「どんなことを意識して制作しているか」という話をしたいと思います。
僕が制作をする際には、様々な価値観に対し真正面から向かい合うことを意識しています。
分類を行ったことで、その向き合い方に関しても分析ができそうです。
制作者には様々なタイプの人がいる
誰かと一緒にイベントを制作する際には、その人のタイプに沿った向き合い方をする。
メルヴィンに寄っている人に対しては、その人と自分の面白さに対する感性を擦り合わせ、より高い次元の面白さを目指す。
ヴォーソスに寄っている人に対しては、その人が表現したい世界の理解を第一に努め、その中で出せる面白さを考える。
プレイヤーにも様々なタイプの人がいる
どれだけ多くの人を楽しませられるかという観点では、より広い客層が面白いと思えるものを作る必要がある。
自分はジョニーであるから、スパイクやティミーにとって満足いくものが作れたかは自分では判断が難しい。
なので制作チームやデバッガーへの意見徴収は怠らないし、あらゆる意見に対し聞く耳を持つようにする。
まあ、なかなか実践するのは難しいんですけどね。
僕の思い描く制作の理想論としてはこんな感じですよ、ってことです。
まとめ
・謎解きイベントは、アイデアの集合体である。それを作れる人はジョニーと言える。
・同じジョニーでも、メルヴィンとヴォーソスでは考え方が違う。
・大事なのは、様々な考え方に真正面から向き合っていくこと
こんなところで、この記事は締めさせていただきます。
何か読者の参考になることが書けてればいいのですが…ほとんど当たり前のことですね。
やはり僕自身の考えの整理という側面が強い。
ぐだぐだ言っても仕方ないですし、
最後にいい感じのことを言ってお茶を濁すとしましょう。
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人それぞれ価値観が違うのは当たり前です。
もし、あなたが誰かとの価値観の違いで辛い思いをしたときは、こう考えてください。
価値観が違うことは何も悪くない。
ただちょっと、その人との付き合い方を間違えてしまっただけだ、と。
価値観が違うからと言って、相手の方を責めないでください。
価値観が違うからと言って、自分自身を責めないでください。
それだけで、この世界は少しだけ幸せになります。
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では。
*1:一枚の画像で完結する、謎解きの小問のこと。誤解のないよう補足すると、一枚謎がどれもアイデア一発である、というわけではない。
*2:参考文献: Timmy, Johnny, and Spike - MTG Wiki , I was game — デザインのための言葉 特に後者はものすごく勉強になりますので、時間があれば是非お読みください。
*3:実際には、スパイク・ティミー・ジョニーの複数に跨る性格だったり、メルヴィンとヴォーソスの両方を併せ持つ価値観だったり、人によって各属性の強弱が違ったりします。なので実際の分類はもっと連続的で、無数に存在します。というか人間の性格が完全に6パターンに分類されてたまるか。
*4:この部分に関しては論理の飛躍を認めます。逆説的に、とか言ってますが逆が成立する保証はないですよね。ただ、概ね現実と矛盾していないように思えるため、ここではこのまま話を進めていきます。
*5:飽くまでイベントを作れる人(制作に楽しみを見出せる人)をジョニーと定義した上での論理展開です。解釈によっては、ジョニーじゃない人はイベント作るのを向いてないよって言ってるように聞こえるかもしれませんが、そういうニュアンスではございません。