AnotherVision Countdown Calendar2017

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勝手な思考の掃き溜め。──娯楽って何だ?

はじめに

この記事は「AnotherVision Countdown Calendar2017」12/20分のものです。
もう10日も前に上がっているはずのものです。遅れてすみませんでした。もはやすみませんで済む話じゃない気がする。

adventar.org

 

────気を取り直して僕のお話を始めさせて頂きます。

 

 

 

はじめに(TAKE2)

この記事を開いてくださった心優しい皆様、「どーも」*1

shiryu(@ribbit_komei)です。AnotherVisionでは4期としてほどほどの役割をしています。もうちょっと自己紹介しましょう。

 

入会:2016年(現在2年生なので入学とほぼ同時期。そもそも、AnotherVision入会を夢見ていた受験生時代だった)

制作:主な制作物は、持ち帰り謎ファイル『大迷宮ロクブケーイからの脱出』。その他にも公演のスライド制作*2をしてきました。

好きなアーティスト:中学の時から小田和正さんのファン。最近は、キリンジ(及びバンドとして再出発したKIRINJI)が好き。最近コトリンゴさんが脱退してしまって、少しショック*3

これを書いている時の作業用BGM:

KIRINJI - 「AIの逃避行 feat. Charisma.com」 Full Size - YouTube

その他:先日、忘年会で行われた「アナビカルトクイズ2017」で優勝しました。

 

 

 

それでは本題です。

註:以下の文章、記事というよりは勝手な思考の掃き溜めのようなものになってしまいました。あらかじめご了承ください。》

 

 

 

娯楽を楽しめる「限度」

謎解きに本格的にのめりこんだのは高校2年の冬。謎解き、と言われて最初に浮かぶのは、やっぱり「リアル脱出ゲーム」に代表される公演型(例:ホール型、ルーム型)*4でしょう。

参加したことがある方なら、それを体験しに足を運ぶ様子を詳細に思い浮かべることは容易なはず。時間までに会場に入り、複数人でチームを組む。ゲームが始まると(場合によってはここでOP動画とか芝居が入ったりして)、司会者が前説を始めます。はい皆さん想像するところですよ。

 

 

「さあ、皆様は大変なことになってしまいました」そうだね。いよいよ始まるぞ。

「ここで一旦状況を整理してみましょう」うんうん。そんな設定だった。

「皆さんは60分が経過するまでにここを脱出しなければいけません」そうかそうか、頑張らなくちゃ。

「それでは、ゲームスタートです!」はい。宜しくお願いします。

 

 

はいはい待った待った。一旦想像終わり。謎解き始めないで。

 

ここで疑問点をひとつ。

 

 

 

「60分」って、何?

 

 

 

 ここで皆さんの回答。

「いや何って、制限時間でしょ?」

 

はい、正解。正解なんですが。少しお聞きください。

 

謎解き公演は性質上、どうしても制限時間をつけざるを得ません。そして、ゲームの内容も大抵の場合は、制限時間が存在するような設定・世界観の下での謎解きとなります。

制限時間はその内容によって決まってきます。大型公演に一番よく見られる60分、その次は30分がよく見られるでしょうか。その他にもCUBEの765秒、最近東京ミステリーサーカス(以下、TMC)に登場したリアル脱出ゲーム『ある刑務所からの脱出』は10分という手軽さ*5。フェス系だともっと多種な制限時間があるでしょう。

そしてこの制限時間、「60分」が境界線になっているように僕には感じられるのです。少なくとも僕は60分以上、という謎解き公演を見かけたことがほとんどないです*6(例外として、AnotherVisionの『ニブンノイチマッチ』は80分公演ですね)。想像力と創造力*7を前にして、60分が透明なアクリルパネルを張っているイメージ。「60分」って、何?

 

制限時間の上限、それは即ちプレイヤーの集中力の限度です。謎解き、もうちょっと一般化して、現代の娯楽に対して、僕らはどれくらいの集中力を保てるのでしょうか。

 

 

 

娯楽の「消費」

人間プラモさんの読み切り漫画に『映画大好きポンポさん』があります。今年の4/4に公開されて以降、閲覧数は約70万となり、8月には単行本として出版されました。未読の方はここで1度読んで欲しい。本当に。

(すごくざっくりとストーリーを話すと、映画プロデューサーである「ポンポさん」とその周りの人々による、映画という娯楽を描いた漫画。136ページと分量こそやや多いものの、構成や人物描写が魅力的で、僕は初読の際、思わず2度読みました。)

www.pixiv.net

以下、この漫画に関する内容のネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

ポンポさんは作中において、「上映時間が長い映画は嫌い」とジーン君(ポンポさんのアシスタント)に言っています。その理由として自分の幼少期の苦い思い出を話した後、こう続けます。

真面目な話2時間以上の集中を観客に求めるのは現代の娯楽としてやさしくないわ

2時間。もしかすると長いように聞こえるかもしれませんが、たったの2時間です。1日のたった8.3%です。僕にとってはあまりにも短い。ポンポさんの主張をここでは是として、なぜこんなにも短い時間しか集中を保てないのでしょうか。

映画、と言われて皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか。おそらく大体の人が「暗い映画館で、時にはポップコーンを食べながら視聴する」情景を思い浮かべたことでしょう。一見、情報を享受するだけの比較的楽な行為に見えます。しかし、実際には複数の感覚をフル回転させているのです。

例えば視覚。周りは真っ暗な密室、対して大きな大きなスクリーンに鮮やかな画面。
例えば聴覚。周りは反響性能が優れている密室。そして音質・音圧・音量に優れた様々な声や音。
例えば頭脳(これだけ感覚ではないですが)。1秒30フレームの映像とそれに合わせた音から生成される情報がとめどなく流れていく中で、展開される物語や表現を理解する。

このように、映画を観るという行為はかなりの肉体的・頭脳的スタミナを要する娯楽なのです。映画館を出て頭が痛くなる経験を、僕自身何回もしてきました。

 

現代の娯楽の特徴は、この映画に代表されると思います。つまり、「感じる・考える」を即時的に要求する、ということです。理由は簡単。娯楽の他にすべきことが多く存在するからです。仕事は昔のような単純作業ではなくなり、勉強は身につけるべき教養は時代とともに増加し、娯楽そのものも多様化し、一つの娯楽に割ける時間はますます限られます。

 

その上で謎解き公演に戻ってみましょう。

オープニングがあります。
そのあと前説で状況や情報を確認します(時には確認しきれないことも……)。
そして60分、頭や身体をフルに使って目の前の謎に立ち向かわなくてはいけません。
失敗した場合はその後の解説でもウンウン悩みます。
やっと終わった?いやいや、最後にエンディングがあります*8

 

────やることが多すぎる!!!!

 

超ざっくりと言うと、映画が最後まで受動的なのに対して、謎解き公演は「謎を解く」というリアクション、または主体的行動の分だけエネルギーを消費します。こんなの2時間でさえやってられません。原型であるリアル脱出ゲームが60分の公演を打ち出してきたのが、実は謎解き業界が10年続いてこられた一因を買っているのかもしれません*9

 

ここまで長々と話をして得られたこと*10は、クソカジュアルに言うと

  • いまどきの娯楽ってMP消費する系のものが多いよね
  • 謎解き公演って、確かに60分くらいがいい塩梅なのかもね

ということです。

 

 

 

────何で急にカジュアルな文体になったかって、僕が疲れたからです。これも「娯楽」の1つ?
それは置いといて、ここまで読んでくださった皆さんもきっと疲れてますよね。ここで小休止。はい深呼吸。頭を空っぽにして〜〜……

超宇宙意志(webnokusoyaro) - MusicVideo - YouTube

はい、頭空っぽになりましたか?今までの記事の内容も忘れた?まあ大丈夫でしょう。

 

 

 

娯楽の「生産」

ここまでは、「娯楽を消費する」立場から、その集中力には限度があるという話をしました。では、「娯楽を生産する」立場に視点を移しましょう。

人間が娯楽を消化できる胃袋に限度があると言われた以上、娯楽はパッケージ状に提供されなければ満足するものにはなりません。では、娯楽を生成する時に注意すべきことは何なのでしょうか。

 

 

ここで再び『ポンポさん』の登場です。先ほどの引用文、その続きとしてこのようなポンポさんのセリフがあります。

製作者はシーンとセリフをしっかり取捨選択して出来る限り簡潔に作品を通して伝えたいメッセージを表現すべきよ

削るべき要素を残したままのぶよぶよした脂肪だらけの映画は美しくないでしょう?

言っていることはいたって単純です。1番伝えたいことを核として、それを受け手にしっかり味わってもらえるように慎重に肉付けして、作品を完成させる。当たり前だ、と思った方もいると思います。

しかし、そうもうまくいかないのが現実です。フランス・スイスの映画監督にジャン=リュック・ゴダールがいますが、彼の映画は90分以下のものが多いのです。それについて、蓮實重彦氏によるインタビュー集『光をめぐって』の中でこのように述べています。

上映時間がどんどん長くなってゆくという現象は、……作者ばかりが孤立してしまったことと無関係ではないかもしれない。いまの撮影システムでは、監督は恐ろしく孤独です。

(中略)

孤立無援の監督は自信がないものだから、あれこれいろいろなものを作品につめこみ、心配になって、無駄な部分をつけたさずにはいられないので、いきおい、映画は長くなってしまう。

そう、実際に制作するとなると、「これ本当に面白いのか……?」と不安になってしまい、代案や付け足しなどあれこれと枝葉が広がってしまうのです。そして枝葉は時には無秩序に広がってしまい、結果、幹の部分が隠れてしまう、あるいは時間が長くなってしまって消費者の集中力が持たない。本末転倒となりかねないのです。

 

では、これを謎解き公演に落とし込むとどうなるのでしょうか。

「一番伝えたいこと」は公演によって違います。MtG(Magic: The Gathering)*11の美学的分類を持ち出すと、ヴォーソス(世界観重視)であるか、メルヴィン(メカニズム重視)であるかによって核は大きく異なるでしょう。ヴォーソス派は展開された世界の重厚さ、メルヴィン派は美しいギミックや謎の仕掛け、が挙げられます。
(用語がわからない方は、先の脚注にある記事も合わせてお読みください)

核が決まったら次は公演の流れを考えますが、ここで大事なのは核を最大限に演出すること。ヴォーソスならば緻密なストーリーや伏線を作り上げ、メルヴィンならば用いる謎や道具を個性的で面白いものに仕立て上げます。

そして注意すべきは「制限時間」。いくら面白い構成になっても、パッケージとして見合っていなければ良い作品とは言えなくなってしまいます。

ここで核を損なわない構成にできるか、あるいは軸のブレた・まとまりの悪い構成になってしまうかの分かれ道が発生するのです。
制作をしたことがある人なら一度は経験しているのではないでしょうか。僕もあったなあ。

 

 

「娯楽を生産する」立場についてまた長く書きましたが、要は

  • 一番伝えたいところを見失わないようにね
  • 消費者の集中力を忘れないようにね

ということです。
書くだけなら簡単なんだけれどね、これが。

 

 

 

おわりに

制限時間から出発して、時には現代の娯楽に一般化しながら、謎解き公演の特徴について書き連ねてきました。ちょっと堅苦しい、少し暗い感じになってしまいましたが、せっかくの思考を整理する場なので許してください。
あと、謎解き公演に参加する時はこんなこと考えていません、最大限楽しもうと心がけています。「ルネ脱出」はすごい*12

 

また、今回言及したのは謎解き「公演」です。もちろん謎解きには公演以外にも周遊や持ち帰りなど、様々なジャンルがあります。また新宿・歌舞伎町のTMCは、まさしく「世界一謎があるテーマパーク」の名の通り、謎に満ちた世界を、制限時間のない日常にもたらしてくれています。そのTMCの代表である加藤隆生氏(SCRAP代表)が12/18に記したブログからの引用です。

kato takao | weblog: 僕が東京ミステリーサーカスを創ろうと思った本当の理由

リアル脱出ゲームを作りながら、僕はずっと短編小説を作ってる気持ちだった。
(中略)
短編小説は、そのフォーマットゆえに、物語の始まりから描くことはできない。
一ページ目から、もう物語は起承転結の転から始める必要がある。 

 

……僕らが作る物語ももっと長い時間人々を夢中にさせる必要があるとずっと思ってた。
そうでないと、日常を変えるほどの影響力を持てないと思っていたから。
いつ来ても、そこには物語があり、その物語は一日ではとても終わらず、ずっとつながっていくような、そういう場所が今この世界に必要だと思っていた。

 

僕はこの記事を通して娯楽を分析(?)していますが、僕の考察を軽く超えた娯楽は目の前に沢山あるのでしょう。そうであることを願って、この記事をおわりにします。ここまで読んでくださった娯楽を楽しむ皆さん、ありがとうございました。

 

 

気づけば2017年もあと2日ですって。締めくくりの2人、もうきっと想像はついてることでしょう。どうぞお楽しみに。

 

 

 

 

*1:僕が最も好きなシンガーの1人、小田和正さんがファンに対して使う挨拶。やってみたかっただけ

*2:これに関連した話をしようかと思っていたら、先に良質な記事を先輩の林檎さんに書かれてしまって諦めました。詳しくはこちらから
謎制作団体で謎制作せずに生き残る方法 - AnotherVision Countdown Calendar2017

*3:どれくらい最近かって、12月の東京・大阪ライブを最後に脱退したくらいに最近

*4:厳密な定義はめんどくさいが、持ち帰りとか周遊とかではないと言えばわかりやすいかもしれない

*5:先日アナビの後輩と行きました、楽しかったです

*6:謎解き始めてから3年も経っていない若輩者の発言なので聞き流してもらっても構いませんが

*7:本題と全く関係ないですが、この2単語で思い出した。制作という思考実験を巧みに表現した動画。
FRENZ 2015 二日目深夜の部オープニング -TAKE OFF- / 機能美p - YouTube
八策さんの記事でも紹介されていますね
機能美pを布教したい #FRENZ_JP|八索@ZER0KIT|note

*8:はいそこ、アナビのエンディングが説教臭いとか言わない

*9:ニブンノイチマッチをプレイされた方、本当にお疲れ様です

*10:得られた、というよりは何となく僕の中で整理できたこと

*11:AVCCだけでもう3回目の登場です。詳しい説明はこちらの記事を読んでいただければわかるかと思います
僕らが謎を解く理由 ~MtGと任天堂に学ぶ、プレイヤーの心理傾向~ - AnotherVision Countdown Calendar2017
イベントを作るということ -性格と価値観の話- - AnotherVision Countdown Calendar2017 

*12:「沈みゆく豪華客船からの脱出」のこと。物語体験として、最高傑作の公演だと思っています