どやからのお年玉
※この記事はAnotherVision Countdown Calendar2017の一環ではありません。
皆様、あけましておめでとうございます。AnotherVision現代表のどやです。
昨日こんな記事を書いていた人ですね。
………………いや、ね?
アナビのメンバーって、企画とかサプライズとかするの得意なんですよ。
で、僕が自分からそういう企画打つことってあまりないんですよ。でもやっぱりそういうの見てると羨ましくなるじゃないですか。自分でもやりたくなるじゃないですか。
と、いうわけで用意させていただきました。
完全独断、事前確認事前報告一切なし。
僕からのサプライズ*1、お年玉です。
*1:さすがというか何というか、アナビメンバーには先にばれました。一部の謎クラにもばれてましたね。ちくしょう。
これまでのAnotherVision、これからのAnotherVision
・この記事はAnotherVision Countdown Calendar2017の一環となっております。
こんにちは。こんばんは。あるいは、あけましておめでとうございます。
AnotherVision3代目代表を務めております、どやと申します。
…………はい、今「え?代表って松丸君じゃなかったの!?」と思ったそこのアナタ。とりあえずナゾトレ本の3巻を買いましょう。そしてメンバー紹介ページを読みましょう。そして僕に懺悔しましょう。
結構傷つくんだぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!
※東大ナゾトレ AnotherVisionからの挑戦状 1巻~3巻は各種書店、Amazonにて絶賛発売中です。
東大ナゾトレ AnotherVisionからの挑戦状 第3巻
- 作者: 東京大学謎解き制作集団AnotherVision
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2017/11/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
さて、宣伝も済んだところで、本当に知らない人のために軽く自己紹介をしておこうと思います。
・名前:どや
・出身:三重
・所属:東京大学法学部3年生
・入会:2015年4月(3期生)
・仕事:AnotherVision3代目代表(2017年4月2日就任)
・作ったもの:『善人開発計画』『あのカフェ』『追憶-Re:Collect-』制作指揮
個人制作で『Colorfuls』『ある青年の箱-Cute Cat-』など。
・好きな作家:米澤穂信(小市民シリーズはいいぞ)
・その他特記事項:天通合氣道初段*1(黒帯)です。
どや謎第2弾、鋭意制作中です。今度のテーマは〇〇〇〇〇〇です。お楽しみに。
1ヶ月間続いたCountdownCalendarもこれが最後です。*2この1ヶ月たくさんの記事を通して、いろいろなメンバーの変わった素敵な一面が見れたことかと思います。
この記事では表題の通り、癖の強いメンバーたちが所属する団体、AnotherVisionがこの1年間どんなことをしてきたのか、そして今後どうしていくのかをつらつらと語りたいと思います。
■これまでのAnotherVision
まずはこちらをご覧ください。今年1年でAnotherVisionが行ってきた謎解きイベント(テレビ放送・持ち帰り謎を含む)の一覧です。
2月 Connect
2月 ある少年の箱 -Cute Cat-
2月 ある少女の本 -Cold Crescent-
3月 リサイコロボックス再演
3月 献血謎For
4月 ダンロンV3 一年間フレンズ。
5月 東大ナゾトレ 第1巻
5月 SHADE OF THE BULLET
5月 ニブンノイチマッチ
6月 Colorfuls
7月 東大ナゾ大陸
8月 東大ナゾトレ 第2巻
9月 ドコモ RESET
9月 グルグル ロクブケーイ
10月 シカバネニブッチW再演
10月 REVERSE
11月 東大ナゾトレ 第3巻
11月 神と天使と僕らの手紙
11月 ヒエラルキアトライアル
12月 一本満足バー謎冊子
東大ナゾトレ #4〜#25
Rの法則 #9〜#13
シークレットコード ちょい足し謎 #1〜#16
いや多すぎか。
(あんまりこういうこと代表が言うもんじゃないんですが、作っている時は目の前にある物に全力なので、あらためて振り返ると多いなあと思いました)
リアルにできるコンテンツだけで20個。単純な回数で63回、この世に謎を出してきました。単純平均で月に5~6回。1回につき数問出すから……自分でも身震いします。
謎を出してきた媒体も、公演に周遊、持ち帰り謎や本と多岐にわたります。これを読んでいる皆様も様々な場所でアナビのコンテンツを遊んできたことでしょう。
しかしやはり、今年のAnotherVisionで一番人々の目に触れてきたのは、『今夜はナゾトレ』だと思います。
もちろんナゾトレの放送自体は去年の11月から行われていたのですが、放送の影響を大きく受けたのは2017年になってからだと感じています。「謎解き」という単語が人々の間に徐々に浸透し、文化祭の公演に子供たちの姿が増え始め、松丸さんはアイドル化しました。
さて、前述のとおり僕は今年の4月に代表に就任しました。AnotherVisionという団体に対する世間からの認知が変化し始めた、まさに時代の移り目に、とてつもない職に就いてしまったわけです。正直言って、代表になる決意をしたとき*3は、こんな状況になるとは予想だにしていませんでした。
変わりゆく状況の中、何もせずにただ突っ立ているだけではこの団体を回していくことはできません。新入生には「ナゾトレで初めて謎解きを知った」という人が増えるだろうし、公演に来る初心者の方々の数も倍増するでしょう。これから起こるであろう変化に備え、団体の内部・外部で様々な改革を行ってきました。
例えば
・文化祭の公演を40分にしました。
────公演回数を増やし、より多くのお客さんに遊んでもらうためです。
・個人制作の公演を打ちました。
────メンバー個人が活躍できる機会を増やしたかったからです。
・内部で「1枚謎コンペ」を行いました。
────新入生に「謎を作る難しさ」を体験してもらうためです。*4
・「新入生コンペ」を4日間の超短期間で行いました。
────「公演制作の難しさ」を端的に体験してもらうためです。
・「講座フェス」を行いました。
────今までメンバーが培ってきたノウハウを下に受け継いでいくためです。
・駒場祭で周遊と公演のダブル開催を行いました。
────さらに多くのお客さんに謎解きを遊んでもらうためです。
etc......
2017年、今までとは違ういろいろなことを行いました。*5
もちろんこれらの改変は僕個人で決めたものではありません。全て、幹部と言われるメンバーと話し合い、またいろいろなメンバーの意見を聞きつつ行っていったものです。
これらの変化が正しい変化だったのか、正直僕にはわかりません。「40分だと物足りなかった」「コンペの期間短すぎ」という意見がなかったと言えば嘘になります。
マイナスの面とプラスの面、どちらが大きかったかは誰にも比較することはできません。
それでも僕が信じてるのは、「立ち止まらなくて良かった」という事です。
五月祭で40分公演をしようとならなければ、シェドバのあの世界は生まれなかったでしょう。駒場祭でダブルコンテンツを作ろうと言わなければ、ヒエトラの驚きもカミテガミの感動も、皆様に提供することはできなかったはずです。
別の方法を取っていれば、別の世界線で別のコンテンツが生まれていたことかと思います。そちらにはそちらの良さがあるでしょう。
でも僕はやっぱり、”この”アナビが生み出したコンテンツが好きです。
それらに出会えて良かったと思っています。
それは確かに、僕たちが立ち止まらなかったことによって生まれたものです。
この変化がなければ、このメンバーでなければ見ることはできなかったでしょう。
願わくばより多くの人々が、この変化の恩恵を受けていますように。
1年前とは大きく様子を変えながらも、2017年が無事終わろうとしています。
たくさん出した謎解きを遊んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
面白い公演をいっぱい作ってくれたメンバーのみんな、本当にお疲れ様でした。
年末、そして年明けは、どうぞゆっくりとお過ごしください。
ここからは鬼も笑う来年の話です。
■これからのAnotherVision
さて…………
2017年、たくさんの謎を作ってきたAnotherVisonは、2018年どうしていくのでしょうか。
1年出し続けてきたから少し休むでしょうか。
それとも変わらぬペースで謎を作り続けるでしょうか。
……皆さん。
これで終わるわけないでしょう????
1ヶ月このブログの記事を読んできてわかったはずです。
AnotherVisionのメンバーは、それぞれベクトルは違えど「熱意」に溢れてます。
謎を作りたい。
デザインをしたい。
映像を作りたい
演出を考えたい。
キャストがしたい。
司会がしたい。
解説スライドを作りたい。
音楽が作りたい。
お客さんを感動させたい。
etc.......
AnotherVisionは理念として「謎解きの裾野*6を広げる」というものがありますが、それは言ってしまえば団体が進む方向性であって、個人を突き動かす動力源はこの「熱意」すなわち「○○したい」という欲望だと思っています。
そんな欲望渦巻くAnotherVisionが、「今まで通り」の「変化しない」ことで満足するはずがありません。
AnotherVisionは、新たなことに挑戦し続けます。
具体的には、〇〇〇で〇〇したり、〇〇〇〇と〇〇〇したり、〇〇〇〇〇〇に〇〇したりする予定です。*7
TMCがオープンし、「謎解き」という文化はさらに広まりを見せることかと思います。
ナゾトレは毎週放送になり、まだまだ放送は続きます。
2017年と同じように僕たちを、AnotherVisionを取り巻く状況はどんどんと変化していくことでしょう。その流れに取り残されないように、むしろ最先端を突っ走るぐらいの勢いで、AnotherVisionは謎を生み出していきます。あらん限りの欲望をコンテンツへとぶつけていきましょう。
2018年も全力を出し続けるAnotherVisionを、どうかよろしくお願い致します。
■終わりに
ここまで1ヶ月記事を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。感謝の意を示して、僕からささやかな謎をプレゼントさせていただきます。年末の暇なお時間にでもどうぞお解きください。*8
勝手な思考の掃き溜め。──娯楽って何だ?
はじめに
この記事は「AnotherVision Countdown Calendar2017」12/20分のものです。
もう10日も前に上がっているはずのものです。遅れてすみませんでした。もはやすみませんで済む話じゃない気がする。
────気を取り直して僕のお話を始めさせて頂きます。
はじめに(TAKE2)
この記事を開いてくださった心優しい皆様、「どーも」*1。
shiryu(@ribbit_komei)です。AnotherVisionでは4期としてほどほどの役割をしています。もうちょっと自己紹介しましょう。
入会:2016年(現在2年生なので入学とほぼ同時期。そもそも、AnotherVision入会を夢見ていた受験生時代だった)
制作:主な制作物は、持ち帰り謎ファイル『大迷宮ロクブケーイからの脱出』。その他にも公演のスライド制作*2をしてきました。
好きなアーティスト:中学の時から小田和正さんのファン。最近は、キリンジ(及びバンドとして再出発したKIRINJI)が好き。最近コトリンゴさんが脱退してしまって、少しショック*3。
これを書いている時の作業用BGM:
KIRINJI - 「AIの逃避行 feat. Charisma.com」 Full Size - YouTube
その他:先日、忘年会で行われた「アナビカルトクイズ2017」で優勝しました。
それでは本題です。
《註:以下の文章、記事というよりは勝手な思考の掃き溜めのようなものになってしまいました。あらかじめご了承ください。》
娯楽を楽しめる「限度」
謎解きに本格的にのめりこんだのは高校2年の冬。謎解き、と言われて最初に浮かぶのは、やっぱり「リアル脱出ゲーム」に代表される公演型(例:ホール型、ルーム型)*4でしょう。
参加したことがある方なら、それを体験しに足を運ぶ様子を詳細に思い浮かべることは容易なはず。時間までに会場に入り、複数人でチームを組む。ゲームが始まると(場合によってはここでOP動画とか芝居が入ったりして)、司会者が前説を始めます。はい皆さん想像するところですよ。
「さあ、皆様は大変なことになってしまいました」そうだね。いよいよ始まるぞ。
「ここで一旦状況を整理してみましょう」うんうん。そんな設定だった。
「皆さんは60分が経過するまでにここを脱出しなければいけません」そうかそうか、頑張らなくちゃ。
「それでは、ゲームスタートです!」はい。宜しくお願いします。
はいはい待った待った。一旦想像終わり。謎解き始めないで。
ここで疑問点をひとつ。
「60分」って、何?
ここで皆さんの回答。
「いや何って、制限時間でしょ?」
はい、正解。正解なんですが。少しお聞きください。
謎解き公演は性質上、どうしても制限時間をつけざるを得ません。そして、ゲームの内容も大抵の場合は、制限時間が存在するような設定・世界観の下での謎解きとなります。
制限時間はその内容によって決まってきます。大型公演に一番よく見られる60分、その次は30分がよく見られるでしょうか。その他にもCUBEの765秒、最近東京ミステリーサーカス(以下、TMC)に登場したリアル脱出ゲーム『ある刑務所からの脱出』は10分という手軽さ*5。フェス系だともっと多種な制限時間があるでしょう。
そしてこの制限時間、「60分」が境界線になっているように僕には感じられるのです。少なくとも僕は60分以上、という謎解き公演を見かけたことがほとんどないです*6(例外として、AnotherVisionの『ニブンノイチマッチ』は80分公演ですね)。想像力と創造力*7を前にして、60分が透明なアクリルパネルを張っているイメージ。「60分」って、何?
制限時間の上限、それは即ちプレイヤーの集中力の限度です。謎解き、もうちょっと一般化して、現代の娯楽に対して、僕らはどれくらいの集中力を保てるのでしょうか。
娯楽の「消費」
人間プラモさんの読み切り漫画に『映画大好きポンポさん』があります。今年の4/4に公開されて以降、閲覧数は約70万となり、8月には単行本として出版されました。未読の方はここで1度読んで欲しい。本当に。
(すごくざっくりとストーリーを話すと、映画プロデューサーである「ポンポさん」とその周りの人々による、映画という娯楽を描いた漫画。136ページと分量こそやや多いものの、構成や人物描写が魅力的で、僕は初読の際、思わず2度読みました。)
以下、この漫画に関する内容のネタバレを含みます。
ポンポさんは作中において、「上映時間が長い映画は嫌い」とジーン君(ポンポさんのアシスタント)に言っています。その理由として自分の幼少期の苦い思い出を話した後、こう続けます。
真面目な話2時間以上の集中を観客に求めるのは現代の娯楽としてやさしくないわ
2時間。もしかすると長いように聞こえるかもしれませんが、たったの2時間です。1日のたった8.3%です。僕にとってはあまりにも短い。ポンポさんの主張をここでは是として、なぜこんなにも短い時間しか集中を保てないのでしょうか。
映画、と言われて皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか。おそらく大体の人が「暗い映画館で、時にはポップコーンを食べながら視聴する」情景を思い浮かべたことでしょう。一見、情報を享受するだけの比較的楽な行為に見えます。しかし、実際には複数の感覚をフル回転させているのです。
例えば視覚。周りは真っ暗な密室、対して大きな大きなスクリーンに鮮やかな画面。
例えば聴覚。周りは反響性能が優れている密室。そして音質・音圧・音量に優れた様々な声や音。
例えば頭脳(これだけ感覚ではないですが)。1秒30フレームの映像とそれに合わせた音から生成される情報がとめどなく流れていく中で、展開される物語や表現を理解する。
このように、映画を観るという行為はかなりの肉体的・頭脳的スタミナを要する娯楽なのです。映画館を出て頭が痛くなる経験を、僕自身何回もしてきました。
現代の娯楽の特徴は、この映画に代表されると思います。つまり、「感じる・考える」を即時的に要求する、ということです。理由は簡単。娯楽の他にすべきことが多く存在するからです。仕事は昔のような単純作業ではなくなり、勉強は身につけるべき教養は時代とともに増加し、娯楽そのものも多様化し、一つの娯楽に割ける時間はますます限られます。
その上で謎解き公演に戻ってみましょう。
オープニングがあります。
そのあと前説で状況や情報を確認します(時には確認しきれないことも……)。
そして60分、頭や身体をフルに使って目の前の謎に立ち向かわなくてはいけません。
失敗した場合はその後の解説でもウンウン悩みます。
やっと終わった?いやいや、最後にエンディングがあります*8。
────やることが多すぎる!!!!
超ざっくりと言うと、映画が最後まで受動的なのに対して、謎解き公演は「謎を解く」というリアクション、または主体的行動の分だけエネルギーを消費します。こんなの2時間でさえやってられません。原型であるリアル脱出ゲームが60分の公演を打ち出してきたのが、実は謎解き業界が10年続いてこられた一因を買っているのかもしれません*9。
ここまで長々と話をして得られたこと*10は、クソカジュアルに言うと
- いまどきの娯楽ってMP消費する系のものが多いよね
- 謎解き公演って、確かに60分くらいがいい塩梅なのかもね
ということです。
────何で急にカジュアルな文体になったかって、僕が疲れたからです。これも「娯楽」の1つ?
それは置いといて、ここまで読んでくださった皆さんもきっと疲れてますよね。ここで小休止。はい深呼吸。頭を空っぽにして〜〜……
超宇宙意志(webnokusoyaro) - MusicVideo - YouTube
はい、頭空っぽになりましたか?今までの記事の内容も忘れた?まあ大丈夫でしょう。
娯楽の「生産」
ここまでは、「娯楽を消費する」立場から、その集中力には限度があるという話をしました。では、「娯楽を生産する」立場に視点を移しましょう。
人間が娯楽を消化できる胃袋に限度があると言われた以上、娯楽はパッケージ状に提供されなければ満足するものにはなりません。では、娯楽を生成する時に注意すべきことは何なのでしょうか。
ここで再び『ポンポさん』の登場です。先ほどの引用文、その続きとしてこのようなポンポさんのセリフがあります。
製作者はシーンとセリフをしっかり取捨選択して出来る限り簡潔に作品を通して伝えたいメッセージを表現すべきよ
削るべき要素を残したままのぶよぶよした脂肪だらけの映画は美しくないでしょう?
言っていることはいたって単純です。1番伝えたいことを核として、それを受け手にしっかり味わってもらえるように慎重に肉付けして、作品を完成させる。当たり前だ、と思った方もいると思います。
しかし、そうもうまくいかないのが現実です。フランス・スイスの映画監督にジャン=リュック・ゴダールがいますが、彼の映画は90分以下のものが多いのです。それについて、蓮實重彦氏によるインタビュー集『光をめぐって』の中でこのように述べています。
上映時間がどんどん長くなってゆくという現象は、……作者ばかりが孤立してしまったことと無関係ではないかもしれない。いまの撮影システムでは、監督は恐ろしく孤独です。
(中略)
孤立無援の監督は自信がないものだから、あれこれいろいろなものを作品につめこみ、心配になって、無駄な部分をつけたさずにはいられないので、いきおい、映画は長くなってしまう。
そう、実際に制作するとなると、「これ本当に面白いのか……?」と不安になってしまい、代案や付け足しなどあれこれと枝葉が広がってしまうのです。そして枝葉は時には無秩序に広がってしまい、結果、幹の部分が隠れてしまう、あるいは時間が長くなってしまって消費者の集中力が持たない。本末転倒となりかねないのです。
では、これを謎解き公演に落とし込むとどうなるのでしょうか。
「一番伝えたいこと」は公演によって違います。MtG(Magic: The Gathering)*11の美学的分類を持ち出すと、ヴォーソス(世界観重視)であるか、メルヴィン(メカニズム重視)であるかによって核は大きく異なるでしょう。ヴォーソス派は展開された世界の重厚さ、メルヴィン派は美しいギミックや謎の仕掛け、が挙げられます。
(用語がわからない方は、先の脚注にある記事も合わせてお読みください)
核が決まったら次は公演の流れを考えますが、ここで大事なのは核を最大限に演出すること。ヴォーソスならば緻密なストーリーや伏線を作り上げ、メルヴィンならば用いる謎や道具を個性的で面白いものに仕立て上げます。
そして注意すべきは「制限時間」。いくら面白い構成になっても、パッケージとして見合っていなければ良い作品とは言えなくなってしまいます。
ここで核を損なわない構成にできるか、あるいは軸のブレた・まとまりの悪い構成になってしまうかの分かれ道が発生するのです。
制作をしたことがある人なら一度は経験しているのではないでしょうか。僕もあったなあ。
「娯楽を生産する」立場についてまた長く書きましたが、要は
- 一番伝えたいところを見失わないようにね
- 消費者の集中力を忘れないようにね
ということです。
書くだけなら簡単なんだけれどね、これが。
おわりに
制限時間から出発して、時には現代の娯楽に一般化しながら、謎解き公演の特徴について書き連ねてきました。ちょっと堅苦しい、少し暗い感じになってしまいましたが、せっかくの思考を整理する場なので許してください。
あと、謎解き公演に参加する時はこんなこと考えていません、最大限楽しもうと心がけています。「ルネ脱出」はすごい*12。
また、今回言及したのは謎解き「公演」です。もちろん謎解きには公演以外にも周遊や持ち帰りなど、様々なジャンルがあります。また新宿・歌舞伎町のTMCは、まさしく「世界一謎があるテーマパーク」の名の通り、謎に満ちた世界を、制限時間のない日常にもたらしてくれています。そのTMCの代表である加藤隆生氏(SCRAP代表)が12/18に記したブログからの引用です。
kato takao | weblog: 僕が東京ミステリーサーカスを創ろうと思った本当の理由
リアル脱出ゲームを作りながら、僕はずっと短編小説を作ってる気持ちだった。
(中略)
短編小説は、そのフォーマットゆえに、物語の始まりから描くことはできない。
一ページ目から、もう物語は起承転結の転から始める必要がある。
……僕らが作る物語ももっと長い時間人々を夢中にさせる必要があるとずっと思ってた。
そうでないと、日常を変えるほどの影響力を持てないと思っていたから。
いつ来ても、そこには物語があり、その物語は一日ではとても終わらず、ずっとつながっていくような、そういう場所が今この世界に必要だと思っていた。
僕はこの記事を通して娯楽を分析(?)していますが、僕の考察を軽く超えた娯楽は目の前に沢山あるのでしょう。そうであることを願って、この記事をおわりにします。ここまで読んでくださった娯楽を楽しむ皆さん、ありがとうございました。
気づけば2017年もあと2日ですって。締めくくりの2人、もうきっと想像はついてることでしょう。どうぞお楽しみに。
*1:僕が最も好きなシンガーの1人、小田和正さんがファンに対して使う挨拶。やってみたかっただけ
*2:これに関連した話をしようかと思っていたら、先に良質な記事を先輩の林檎さんに書かれてしまって諦めました。詳しくはこちらから
謎制作団体で謎制作せずに生き残る方法 - AnotherVision Countdown Calendar2017
*3:どれくらい最近かって、12月の東京・大阪ライブを最後に脱退したくらいに最近
*4:厳密な定義はめんどくさいが、持ち帰りとか周遊とかではないと言えばわかりやすいかもしれない
*5:先日アナビの後輩と行きました、楽しかったです
*6:謎解き始めてから3年も経っていない若輩者の発言なので聞き流してもらっても構いませんが
*7:本題と全く関係ないですが、この2単語で思い出した。制作という思考実験を巧みに表現した動画。
FRENZ 2015 二日目深夜の部オープニング -TAKE OFF- / 機能美p - YouTube
八策さんの記事でも紹介されていますね
機能美pを布教したい #FRENZ_JP|八索@ZER0KIT|note
*8:はいそこ、アナビのエンディングが説教臭いとか言わない
*9:ニブンノイチマッチをプレイされた方、本当にお疲れ様です
*10:得られた、というよりは何となく僕の中で整理できたこと
*11:AVCCだけでもう3回目の登場です。詳しい説明はこちらの記事を読んでいただければわかるかと思います
僕らが謎を解く理由 ~MtGと任天堂に学ぶ、プレイヤーの心理傾向~ - AnotherVision Countdown Calendar2017
イベントを作るということ -性格と価値観の話- - AnotherVision Countdown Calendar2017
*12:「沈みゆく豪華客船からの脱出」のこと。物語体験として、最高傑作の公演だと思っています
最初はみんな0から始まるんだよ
この記事はAnotherVision Countdown Calendar2017の一環の記事です。
12/29の担当はうつるだよ!12/30になっちゃいましたごめんなさい。
簡単に自己紹介します。
名前:現流(うつる)
Twitter:@Utsuru_T(あんまりつぶやかない上フォロバをしないことが多いです…)
所属:立教大学現代心理学部映像身体学科4年/AnotherVision3期*1/パテトポテト
制作:シカバネ生存戦略(マネージャー)、善人開発計画(制作指揮・マネージャー)、HACKERS(制作指揮・マネージャー)、無彩色の隔壁(制作指揮)、1/2match(制作)*2
見ていただければわかるとおり、公演のマネジメントをやっていることがほとんどです。あとは制作ではないですが、様々なところでスタッフのお手伝いをさせて頂いたりしています。*3
趣味:歌うこと カラオケ行きたい。行けてない。誘ってください。
原宿系?のファッションをすること これも最近全然できてない
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パズルへの愛を語り、謎への繋がりを綴る
・この記事はAnotherVision Countdown Calendar2017の一環の記事となっております。
0. 目次
- はじめに
- パズルと謎の領域
- パズル謎の裏ルール
- 謎解きとパズルの切れない縁
- 謎作りだって一つのパズル
- おわりに
1. はじめに
みなさんこんにちは,AnotherVisionのkattunと申します.
AVCC2017を読んでくださっている方にとってはお久しぶりです.
↓の記事で「物品とパズルって凄いよね」って言ってた人です.
http://avcc.hatenablog.com/entry/2017/12/16/004353
今年も残り僅かとなりましたが,みなさんいかがお過ごしでしょうか.
一年を振り返ってみると,色々なことがあったのではないかと思います.
私自身,今年は特に謎や謎解きに関する出来事がたくさんありました.
例えば,少人数で謎解き公演を作ったり,みんなで謎を解きに行ったり.
何より大きかったのは,謎でたくさんの方との繋がりができたことでした.
この一年を通して,謎解きは私に色々な機会を与えてくれたように感じます.
そんな謎解きに私がはまるようになったきっかけって,何だったんだろう?
その記憶の糸を辿ってさかのぼると,そこにあった答えは「パズル」でした.
謎解きでのパズルの使われ方に,私はパズルの新しい面白さを見つけたのです.
そこから謎解き自体が面白いと感じるまで,そう時間はかかりませんでした.
そこで,本記事ではパズル界隈出身*1の私の体験や経験を交えながら,
パズルを通した謎との関わり方に思うことを書き進めていきたいと思います.
長くなりますが,どうか最後までお付き合いいただければ幸いです.
(一部12/16記事の内容に繋がる部分があります.よろしければ過去の記事もご覧ください.)
2. パズルと謎の領域
まずはこの先話を進めるうえでの前提,パズルと謎のカバー範囲のお話です.
パズルと謎を大まかに区別するなら,大体以下のようになります.
[パズル] : 指示されたルールに従えば誰でも解けるもの
[ 謎 ] : ひらめきや気付きがあって初めて解けるもの
でも,実際はこんなにきっぱりと分けられるものではありません.
1つの謎にルールで解ける部分とひらめき部分が混ざることだってあります.
何故ならそれは,パズルと謎のカバーする範囲が重なっているからなのです.
上の図で2つの円が重なっている部分,ここがパズルであり,謎である部分です.
そこにはパズルっぽい謎もありますし,逆に謎っぽいパズル*2もあります.
「ひらめかないと解けないのが謎なのに,パズルっぽい謎って何だ」
「ルールに従えば解けるのがパズルなのに,謎っぽいパズルって何だ」
と思われる方もいらっしゃるかもしれません.
そうなんです,少し矛盾しますよね.でも,そんなものなのです.
はっきりと「これはパズル」「これは謎」と言い切れるものもありますが,
全体を通して見てみると,実はパズルと謎の境界は結構あいまいなのです.
実際,小謎のいくつかの問題はルールに従っているだけで解けますよね.
グラデーションのかかった,パズルとも謎とも断言できない領域.
ここでは,パズルと謎のどちらの要素をどれくらい持ち合わせるかによって,
パズルと言えるか,それとも謎と言えるかが大きく変わってきます.
ですので,厳密な定義をきっちり当てはめようとするのは難しいです.
今回の記事はパズルが謎とどう関わっていくのかがメインのお話ですので,
ざっくりとした棲み分けは理解しつつも細かい定義の話は抜きにして,
「謎におけるパズルとはキーワードや謎の真の姿を隠すための大事な一手段」,
そう考えておくのが,無難なのかもしれません*3.
3. パズル謎の裏ルール
先程,パズルと謎の境界が曖昧な例として小謎の話をちらっと出しました.
いわゆる「純粋なパズル」を謎解きの中で使うことはそう珍しくありません.
そんなパズルを謎として出す時は,3つほど裏ルールがある気がしています.
①解いた後にメッセージが出ること
②必ずどこかで謎に関わること
③難しすぎないこと
ここではそれぞれについて,少しずつ言及していこうと思います.
①解いた後にメッセージが出ること
純粋なパズルというのは「盤面の完成自体が目的」であることがほとんど*4.
ですが,謎としてパズルを解く際に,盤面の完成だけではスッキリしません.
解いた後に言葉が出てくる方が,謎解き中での納得度は上がりますよね*5.
②必ずどこかで謎に関わること
キーワードを出すためだけにただパズルを解いた.それでも問題はありません.
でも,そこに気付きがなければ,その問題はただの作業で終わってしまいます.
そこに新たな手がかりが隠れている方が,謎解きとして綺麗に繋がるはず*6.
③パズルが難しすぎないこと
謎解きをする人は,恐らく超高難度のパズルが解きたいのではありません.
特に時間制限がある公演型の謎解きでは尚更です.悩みたいのはそこじゃない.
手掛かりさえ集まればサラっと解けるレベルのパズルが適しています*7.
みなさんが面白いと感じるパズル謎は,大体どこかにひらめきが絡んでいて,
ある事に気付けばすんなり解答ワードを導けるものが多いのではないでしょうか.
どのルールも必須ではないですが,「謎解きの中のパズル」であることを考えれば
謎解き体験全体を良くするためには必要なことではないかなぁ,と感じています.
4. 謎解きとパズルの切れない縁
では,実際に謎解きではどのようなパズルが使われるのでしょうか*8.
物品を使うパズルだと,ブロックパズル・絵合わせパズルがあると思います.
それから数独や覆面算,迷路なんかもよく見かけるのではないでしょうか.
あとは言葉系統だとクロスワード,しりとり,シークワーズなどなど.
他にはヒントをかき集めて正解を推理する論理パズルなんかも……
何を隠そう,謎に使われるパズルにはこんなにも多くの種類があったのです*9.
そもそも謎に近い「暗号」自体もパズルに含まれることがあるくらいですから,
それくらいパズルの世界と謎解きの世界は相性が良いことが分かります.
でもひらめきが大事な謎解きで,何故これ程パズルが使われているのでしょう.
これはあくまで私の推測ではありますが,パズルのカバーする範囲の広さ,
そしてパズルの持つ特徴が,謎の手がかりを隠すのに最適だからかもしれません.
パズルというのは,解ければ全てが見えるけれど,解けなければ何も分からない.
解けるまで気付いて欲しくない色々なものを隠すのには,うってつけなのです.
ひらめいた結果パズルが解けるようになり,隠れていたものが見えるようになる.
この流れは体験としても面白く,謎制作者としても非常に演出がしやすいです.
そんなWin-Winの関係になる便利ツールを,使わない訳がないですよね?*10
……まあ,数字と文字の対応とか,記号とアルファベットの変換とか,
使い古されたネタになってしまうと「やっぱりか」って感情になるんですけどね…….
5. 謎作りだって一つのパズル
ここまでは謎にパズルを使うことについてをメインに書き進めてきましたが,
最後に少し,謎制作がパズル的な側面を持つことについてお話したいと思います.
12/16の記事で触れた「パズル」は,大体この部分のお話になります.
まず,どうやって謎を思いつくのか.これは人によって違うと思います.
地道な調査でアイデアを見つける人,天から発想が降ってくる人,様々です.
この部分は気付きやひらめきが必要な,パズルのない純粋な謎の部分です*11.
ですが,そのアイデアを形にするとき,少なからずパズル的な実装が必要です.
謎解き公演で用いられる小謎を考えてみると,少しわかりやすいかもしれません.
大謎や再利用謎に必要な手掛かりを,過不足なく小謎に散りばめて配置する.
そして,一目見ただけではそこに配置された手掛かりが分からないように,
それぞれの小謎を上手く別のパズル・問題として見えるように作り上げる.
問題に含めるべき情報,そして場合によっては解答ワードも決まっている状態で,
適切にカモフラージュした問題を作るのは非常に大変で地道な調整が必要です.
また,「どの情報をどこに割り当てれば謎として実装できるか」を考える時も,
論理パズルの条件整理のように,謎解き全体での辻褄を合わせる必要があります.
このあたりが,私が謎を作る中でパズル制作と似ていると感じる部分であり,
謎制作者にパズル界隈の人が多い理由でもあるのかなー,と解釈しています*12.
6. おわりに
パズルと謎についてのお話,いかがでしたでしょうか.
長々と本記事を書いてきましたが,全体を通して言いたいことはこれです.
「パズル世界と謎解き世界の良い関係に気付いて欲しい!」
謎解き参加者は,解いている謎の裏に意外な程多くのパズルが潜んでいること.
謎解き制作者は,謎解き体験を良くする上手なパズルとの付き合い方があること.
これを少しでも意識してもらえれば,本記事の目的は達成できたと思います.
……さて.このAVCC2017も,残すところわずか3記事となりました*13.
1年を締めくくるのに相応しい,先輩メンバーの方々が執筆予定です.
これまでの謎を振り返る人も,これからの謎に期待する人も.
全ての謎解きを愛するみなさんが,来年も素晴らしい謎たちと出会えますように.
それでは,良いお年を!(^ ^)ノシ
*1:年齢≒パズル歴,「NO PUZZLE, NO LIFE.」をモットーに掲げるレベルでパズルを溺愛する人間です
*2:閃かないと解けないパズル,そういうものも実はあるんです
*3:このあたりはきっちり表記するのが難しいです…….
*4:謎解きでよく見る数字系・記号系のパズルは特にこの傾向が強いです.
*5:例外もあります.Web謎では数独を解いて指定位置の数字を入力するだけのものも.
*6:隠し方次第ではあります.綺麗に隠れている程謎としての完成度も上がりますね.
*7:難しいパズルを中心にした謎解きもありますが,それはターゲットを絞って行うべきだと考えています.
*8:といっても,謎解きをされる方にとってはこれまでに見てきたまんまですね.
*9:パズルのカバー範囲自体が非常に広いというのも理由の一つですね.
*10:あくまで個人の感想です.でも謎作る時にはかなり有用です.
*11:大前提としてここが面白くないと,パズルが凄くても謎として残念になることがしばしば.
*12:でも昔は今ほど再利用謎が多くなかったし,制作者層も少し違っていたのかも.
*13:遅刻者分の記事は除きます.時間に厳格な団体とは一体何だったのか.
イベントを作るということ -性格と価値観の話-
まず初めに。
記事がクリスマスに間に合わなかったよ...。
...ごめんて。
真面目に書いてたら遅くなったんです許してください...。
というわけで、12月25日分の記事の内容にね、入っていきたいと思います。
プロフィール
まずは自己紹介から。
東京大学謎解き制作集団AnotherVisionで「とと」という名で活動している者です。
名前 とと
twitter @to_to_0121
入会時期 2015年4月入会。いわゆる3期。
活動内容 AnotherVisionの副代表をしています。イベント単位では、制作指揮、その補佐、または監修をする人です。
作ったもの 最近だと謎解き公演「ニブンノイチマッチ」「REVERSE」、謎解き周遊「神と天使と僕らの手紙」ですかね。他にもいっぱい作ってます。
趣味 音楽ゲームとカードゲームが好き。(ツイッターのアイコンは遊戯王のカード)
尤も、カードゲームは対戦相手がいないのでほぼ引退してます...。
しかしながら、未だにカードゲーム関係の動画や記事を見ているので、やはり趣味には違いないですね。具体的にはデュエマと遊戯王をやってました。
さて、突然ですが。
この記事を読んでいるあなたは、謎解き問題やイベントを作ったことがありますか?
あるいは、作ろうとしたことがありますか?
謎解きを解くには特別な知識は必要ありませんし、作る側もそれは同じです。
しかし、いざ実際に作ってみるとなかなか思いつかないものです。
面白いものを作るとなれば尚更です。
謎解きを作れる人って、客観的に見て異質だと思うんですよ。
いったいどんな人が、謎解きを作ることができるのでしょうか。
この記事では謎解き、特に謎解きイベントに焦点を当て、
制作工程、及び関わる人間の性格・価値観を分析し、
その上で自分は何を意識しているのかという話をします。
なぜこんな話をするかというと、完全に自分の脳内整理のためなんですが...。
制作する人もそうでない人も、きっと何かしら参考になると思いますよ。
いや、知らんけど。
アイデアを生みだすのは大変
謎解きイベントは、全体を飾る大謎から1つ1つの小謎、さらには演出にいたるまで、数多くのアイデアから成り立っています。
言うなれば、謎解きイベントはアイデアの集合体です。
しかし、アイデアを思いつくというのはそう簡単なことではありません。
僕はAnotherVisionに入って約3年間謎を作ってきましたが、断言します。
アイデアを確実に生み出す手段など、ない。
ですが一方で、アイデアを生み出しやすくする手段はあります。
それが「考える」こと。
アイデアが生まれるまで根気強く考え、あらゆる可能性を試行錯誤する。
これが制作においては必要です。
もちろんアイデアは意図しなくても降ってくることがあります。
アイデア一発の一枚謎*1であれば、そのまま完成することもあるでしょう。
しかしボリュームのある謎解きイベントの制作では、この考える工程は不可欠です。
アイデアを生むために考え続けることができて初めて、謎解きイベント制作のスタートラインに立てるんですね。
ぶっちゃけ、性格で向き不向きがある
考え続けるにはかなりのモチベーションが必要です。
作ればそれなりのお金が貰える、等の外からの要因でモチベーションが生まれることもあり得ますが、
基本的には、 謎作り自体に楽しさを見出せる人でないと作るのは難しいでしょう。
では、人は謎制作のどのような点に楽しさを見出すことができるのでしょうか。
少し考えていきましょう。
心理学的分類と美学的分類
人の性格を語る上で、非常に便利な指標があります。
カードゲーム「Magic: The Gathering」の開発部で使われている、心理学的分類および美学的分類です。*2
こちらの分類については、カウントダウンカレンダー12月11日のしゅんさんの記事で、謎の解き手の立場から深く掘り下げられています。
興味があればこちらも読んでいただくと、理解が深まるかと思います。
なお、後にこの分類を謎解きに当てはめる際に、
しゅんさんの記事とは解釈が異なる部分がありますのでご注意ください。
それでは簡単に分類について説明していきます。
心理学的分類:カードゲームを遊ぶ動機には以下の3種類がある。
スパイク
カードゲームに挑戦を求める人。
≒勝利を追求するのが好きな人。
ティミー
カードゲームに体験を求める人。
≒カードで遊ぶこと自体が好きな人。
ジョニー
カードゲームに自己表現を求める人。
≒デッキを組むことが好きな人。
美学的分類:カードゲームの価値の判断基準には以下の2種類がある。
メルヴィン
カードの機能や相互作用、メカニズム、複雑なトリックが好き。
≒論理派
ヴォーソス
カードの持つ雰囲気やフレーバー、コンセプトが好き。
≒感覚派
心理学的分類と美学的分類は別の分類軸であり、これらを組み合わせることで3×2=6パターンの性格に分類することができます。*3
これをもとに、謎解きイベントの制作者像を考えていきましょう。
イベントを作るのはジョニーだ
先に結論を述べてしまうと、謎を作ることに楽しみを見出せる人はジョニーに分類される、というのが僕の考えです。
なぜこのような結論に至ったかと言うと、謎解きイベントの制作とカードゲームのデッキ構築、それぞれの工程に非常に多くの共通点が見られるからです。
(僕は高校時代は遊戯王オフィシャルカードゲームのデッキビルダーでした。)
僕がデッキを組む場合の工程は以下の通りです。
①まず、デッキの主軸を考える。1枚のカードである場合も、複数枚のカードのコンボである場合もあるが、何を活かしたいのかを明確にする。
②主軸が決まったら、それを実際の対戦で活かすためにサポートするカードを考える。例えば、主軸のカードをどうやって手札に持ってくるか、など。
③その上で、相手の行動によって対戦中に発生しうる状況を考え、それに対応するための手段を考える。例えば相手が攻撃力の高いモンスターを出したらどうするか、こちらの動きを制限する魔法カードを使われたときに対応できるか、など。
④実戦を繰り返し、デッキを調整する。デッキが思うように機能しない場合に、その問題点を整理し、それぞれに対応する方法を考える。例えば、敵の罠カードによる妨害に極端に弱いことが判明したなら、罠カードを破壊する手段を増やす、など。
また謎解きイベント制作の場合は、
①まず、主軸となるとなる謎や世界観を用意する。
②主軸を活かせるような途中のステップ、演出等を考える。
③謎を解くプレイヤーがどのような思考に至る可能性があるかを考え、不親切なミスリードやストレスが発生しうる場所を予測し、なるべく無くす。
④デバッグを行い、実際のプレイヤーの反応を見ながら微調整する。
という流れになります。
構造が酷似していることが分かりますね。
デッキ構築とは、創作活動そのものなんです。
別にスパイクやティミーも、デッキ構築に触れないわけではありません。
彼らは勝率を上げるために採用するカードを吟味したり、楽しく遊ぶためにお気に入りのカードを追加してみることはあります。
しかし、40枚のカードからなるデッキを0から構築できる(かつ、ある程度ちゃんと機能するものに仕上げられる)のは、そこに楽しみを見出せるジョニーに他ならないと僕は考えます。
そしてこれは謎解きイベントについても同様です。
謎や演出を少し考えてみる程度ならスパイクやティミーにもできますが、イベント単位で作ることができるのはジョニー的な性格あってこそでしょう。
ジョニーは、人に見せるために作る。
話を戻しますと、謎解きイベントを作る人は、何に楽しさを見出しているのか、ということでした。
ここまでで、謎解きイベントを作る人はジョニーである、と述べました。
ということは、逆説的に考えればイベント制作者は自己表現を求めている、ということになります。*4
自己表現により具体的にどのように楽しさを見出しているか、美学的分類をもとに考えていくとこのようになります。
自慢したい(メルヴィン・ジョニー)
自分はこんなに素晴らしいものを作れるのだ、と世界に知らしめたい。
…というと、いささか身勝手なように聞こえますが、
より多くの人に楽しんでもらえるものを作りたい。
それによって自分は満足できる。
という構造が当てはまります。
価値基準としては、謎解きの導線の綺麗さ・物語と謎解きの整合性に重きを置きます。
共感を得たい(ヴォーソス・ジョニー)
自分が面白いと思う謎解きイベントを、ほかの人にも楽しんでもらいたい。
自分の作りたい世界のありのままを表現したい。
価値基準としては、謎解きのテーマや世界観設定に重きを置きます。
※個人の意見です。それは違う、自分はいずれにも当てはまらない等の意見があれば、是非参考にさせてください。
ちなみに僕はかなりメルヴィンに寄ったジョニーです。
僕が謎解きイベントを作るのは、「より多くの人に楽しい体験をしてほしいから」(それによって承認欲求が満たせるから) ということになります。
制作者の多様性
分類を整理したことで、新たに見えてくる部分があります。
それは、
謎解きイベントを作る人にも様々なタイプがいる(いてよい)
ということです。
そもそもジョニーにはメルヴィンとヴォーソスがいる。
メルヴィンが作る謎解きに世界観的な深みが足りなかったり、ヴォーソスが作る謎解きに論理的な整合性が取れていなかったりすることは容易に発生する。
ただそこに重きを置いていないだけなのだ。
(特に大人数での制作において)スパイクやティミーも参加している場合がある。
スパイクは勝負の場としての公平さに基づき、ティミーは自身の繊細な感性に基づきイベント制作に真剣に向き合ってくれる。
制作メンバーにいるくらいなので、案出しに関しても積極的。
しかしイベントを構築できるかは別問題。
それはジョニー的感性の大きさで決まるのだ。*5
制作する上での意識
ここまでで一般的にどんな人が謎解きイベントを制作するのか、という話をしてきましたが、ここからは僕の話、特に「どんなことを意識して制作しているか」という話をしたいと思います。
僕が制作をする際には、様々な価値観に対し真正面から向かい合うことを意識しています。
分類を行ったことで、その向き合い方に関しても分析ができそうです。
制作者には様々なタイプの人がいる
誰かと一緒にイベントを制作する際には、その人のタイプに沿った向き合い方をする。
メルヴィンに寄っている人に対しては、その人と自分の面白さに対する感性を擦り合わせ、より高い次元の面白さを目指す。
ヴォーソスに寄っている人に対しては、その人が表現したい世界の理解を第一に努め、その中で出せる面白さを考える。
プレイヤーにも様々なタイプの人がいる
どれだけ多くの人を楽しませられるかという観点では、より広い客層が面白いと思えるものを作る必要がある。
自分はジョニーであるから、スパイクやティミーにとって満足いくものが作れたかは自分では判断が難しい。
なので制作チームやデバッガーへの意見徴収は怠らないし、あらゆる意見に対し聞く耳を持つようにする。
まあ、なかなか実践するのは難しいんですけどね。
僕の思い描く制作の理想論としてはこんな感じですよ、ってことです。
まとめ
・謎解きイベントは、アイデアの集合体である。それを作れる人はジョニーと言える。
・同じジョニーでも、メルヴィンとヴォーソスでは考え方が違う。
・大事なのは、様々な考え方に真正面から向き合っていくこと
こんなところで、この記事は締めさせていただきます。
何か読者の参考になることが書けてればいいのですが…ほとんど当たり前のことですね。
やはり僕自身の考えの整理という側面が強い。
ぐだぐだ言っても仕方ないですし、
最後にいい感じのことを言ってお茶を濁すとしましょう。
*******************
人それぞれ価値観が違うのは当たり前です。
もし、あなたが誰かとの価値観の違いで辛い思いをしたときは、こう考えてください。
価値観が違うことは何も悪くない。
ただちょっと、その人との付き合い方を間違えてしまっただけだ、と。
価値観が違うからと言って、相手の方を責めないでください。
価値観が違うからと言って、自分自身を責めないでください。
それだけで、この世界は少しだけ幸せになります。
******************
では。
*1:一枚の画像で完結する、謎解きの小問のこと。誤解のないよう補足すると、一枚謎がどれもアイデア一発である、というわけではない。
*2:参考文献: Timmy, Johnny, and Spike - MTG Wiki , I was game — デザインのための言葉 特に後者はものすごく勉強になりますので、時間があれば是非お読みください。
*3:実際には、スパイク・ティミー・ジョニーの複数に跨る性格だったり、メルヴィンとヴォーソスの両方を併せ持つ価値観だったり、人によって各属性の強弱が違ったりします。なので実際の分類はもっと連続的で、無数に存在します。というか人間の性格が完全に6パターンに分類されてたまるか。
*4:この部分に関しては論理の飛躍を認めます。逆説的に、とか言ってますが逆が成立する保証はないですよね。ただ、概ね現実と矛盾していないように思えるため、ここではこのまま話を進めていきます。
*5:飽くまでイベントを作れる人(制作に楽しみを見出せる人)をジョニーと定義した上での論理展開です。解釈によっては、ジョニーじゃない人はイベント作るのを向いてないよって言ってるように聞こえるかもしれませんが、そういうニュアンスではございません。
12月27日、今日は何の日?
クリスマスイブぶりのゆ。
(撮影:ゆ)